ビギナーレベルでも知っておかなければならないのが、距離ロスの影響です。
この予想要素をお伝えするために、2002年の皐月賞と2005年の弥生賞において最も強い内容の馬についてクイズを出しました。

まず、クイズの解答(例)は以下のとおりです。

問1.A:タニノギムレット、B:ディープインパクト
問2.距離ロス(その他、中山2000mのコース条件や展開の重心などを絡めて頂いてももちろん可ですが、大外を回っていることの指摘は必須)

以前、カール・ルイスが100mを走り、ウサイン・ボルトが105mを走る条件での競走を例に出しましたが、AのタニノギムレットやBのディープインパクトには、まさにそのような物理的なロスが発生しています。

競馬場は楕円形にコースが作られており、そのほとんどの距離設定において、コーナーを回る設定となっています(例外は新潟直線1000mだけ)。

義務教育時代に皆さんが勉強しているはずですが、円周の長さを求める計算式を覚えていますでしょうか。

円周の長さ=2πr(直径×3.14(円周率))

1角~2角の影響を無視する(半円で計算する)としても、3角~4角のいわゆる勝負所でロスをする距離というのは、半径(通っている場所-最内)×3.14(m)となり、1頭分外を回す毎に1m半径が長くなるとすれば、1頭分外を回す毎に3m程度と計算されます。

(厳密には、3角の入り口は4角ほど馬群が膨らまないので半円ほどはないにしても、馬と馬との距離は1m以上あると考えられるので、相殺するとこれくらいのロスが発生していると思われます)

Aのタニノギムレットは直線の入り口手前で最内から数えて8頭分外(勝ったノーリーズンは3頭分外、2着タイガーカフェは1頭分外、4着ダイタクフラッグは最内)。

Bのディープインパクトは直線入り口手前で最内から数えて5頭分外(2着アドマイヤジャパンは最内、3着マイネルレコルトは2頭分外、4着ダイワキングコンは1頭分外)。

Aのほうから計算してみましょう。
勝ったノーリーズンは3頭分外を通っているので2009mを1:58.5(=118.5秒)で走っており、タニノギムレットは8頭分外を通っているので、2024mを1:58.8(=118.8秒)で走っているものとしますと、両馬を2000m走ったことに換算すれば以下のとおりとなります。

ノーリーズン  >2009:118.5=2000:118.0
タニノギムレット>2024:118.8=2000:117.4

約0.6秒の差がつきました。実際にこの2頭の着差はダービーでは0.7秒ついていますが、このレースを目算しても、それくらいの力差があるということです。

これはゴール前だけのVTRを見ているだけでは気が付けません。ゴール前の映像よりも、勝負所である3~4コーナーを見ることの重要さを伝える良い題材です。

続いてBを計算してみましょう。
勝ったディープインパクトは5頭分外を通っているので2015mを2:02.2(=122.2秒)で走っており、2着のアドマイヤジャパンは最内を通っているので、2000mを2:02.2(=122.2秒)で走っているものとしますと、両馬を2000m走ったことに換算すれば以下のとおりとなります。

ディープインパクト>2015:122.2=2000:121.3
アドマイヤジャパン>2000:122.2=2000:122.2

レース結果はたったのクビ差ですが、既に0.9秒差(約5馬身半)の差があったと考えることができ、また、スローペースを後ろにいた分と、力を出し切っていないような手応えを勘案すれば、それ以上の力差を感じさせる内容なのです。

皐月賞では、2頭の着差は0.6秒差に縮まりますが、これはディープインパクトが出遅れ、かつ大外を回した分の差を引いたものですし、日本ダービーでは2.0秒に広がっています。この時のアドマイヤジャパンは人気も低く、調子が悪かったのかもしれませんが、3着のシックスセンスとの差も1.2秒差ですから、1秒規模で抜けた存在であったことがこの分析から、弥生賞の時点でわかるのです。アドマイヤジャパンはラジオたんぱ杯で連対馬と同等レベルの内容で3着、京成杯も勝っているこの世代の猛者であり、このレースでは朝日杯を勝っていた2歳王者マイネルレコルトもいました。彼らに対してディープインパクトが見せたパフォーマンスは、玄人ファンを唸らせるものでした。

また、選んだレースが中山2000mになったのは偶然ではなく、このような距離ロスが発生しやすいコースであるからです。

距離ロスの影響は、ペースが緩んだ地点ではあまり発生しません。例えば、マラソンを走っていたとして、カーブがあるところでも、そこで1メートル内を走るか外を走るかでは、影響はあまりないと感じられるでしょう。それは、負荷を感じない程度のスピードの加減によって、ついていけるからです。

それが、全速力で走っているときに1メートル外を走らなければならなくなれば、ついていくこともままならなくなるでしょう。距離差が結果につながる大きな影響を与えることになります。

このようなことから、ラップの速くなる前にコーナーがある東京などの直線の長いコースでは、外を回しても先ほどの計算ほどの影響がないことも多いです。

注1)ここでの話は普通(デフォルト)の馬場状態を前提としてお話しています注2)2002年皐月賞が行われた中山開催は高速馬場(非常に速い時計が出やすいコンディション)だったため、ハイペースとは考えていません

2011.07.19