内でジッと脚を溜め、コースロスをなくして直線を向き馬群を捌ければ好走できる可能性は非常に高くなる。これは予想者がアナログ予想を磨く中で当然体得していくことであるが、それは当然内枠を引いた騎手も考えること。それができるかできないかも騎手の技術である。

 “(元)崖っぷちジョッキー”谷中氏は自身のデビュー戦で、初騎乗初勝利を目指し、兄弟子である加賀武見騎手にアドバイスを求めたところ、「直線では真っ直ぐに走れ」「コーナーを回るときは、他馬の動きをなぞれ」と言われたという。谷中氏は当たり前すぎる答えに当惑したのだが、それはレース後に理解できたという。

 「しかしレースが終わったそのとき、愕然となった。「こんなに難しいのか」そう思ったのだ。スピード、競り合いの厳しさ。どちらも調教とはまったく違う。」
 「パトロールフィルムで見ると、僕は馬場のど真ん中を走っていた。内ラチとそっくり同じ角度でコーナーを回ったとレース中は思っていた。しかし現実には、馬群から1頭だけポツンと離れ、ものすごい大回りをしでかしていたのだ。」

 競馬ファンは普通の光景としてコーナーに沿って回って来る人馬を見ているが、考えてみれば時速60キロというスピードで走る競走馬のコーナリングを思い通りに操るのは技術の要ることで、相当の遠心力を受けることは想像に難くない。
 谷中氏はペリエ騎手が話したというエピソードを付記し、日本人騎手に檄を飛ばしている。

 「あとから来日した外国人ジョッキーたちに、ペリエはこんなアドバイスをしたという。「とにかく内ラチ沿いを走れ。こちらから仕掛ける必要はない。コーナーに入ると自然に前が開く」
つまりは、こういうことだ。日本の乗り役は、下手クソばかりだ。コーナーを回るとき、必ず外へふくらむ。3コーナー、4コーナーで、自然にインコースが開く。そこをつけば、楽に勝てる-」
(『ファンが知るべき競馬の仕組み』谷中公一)

 これを読んで、外国人騎手が穴馬券を連発できた理由を、私は納得できたのだ。騎手の技術は予想要素の中でそれほど大きな位置を占めていないと思ってきたが、それは日本のトップ騎手ばかりで行われているのが普通だからであり、若手騎手や外国人騎手が混ざれば、それを予想にある程度加味しなければならないのではないか。

 上記は谷中氏の記述であるが、当の本人、ペリエ騎手の言葉にも該当箇所があったので引用させて頂こう。

 「ヨーロッパの馬群の厳しさは半端じゃない。日本の場合は故意にぶつけたりするとすぐに審議対象になってしまうけれど、ヨーロッパの場合は自分のポジションを確保するためだったら平気でぶつけてくる」
 「(中略)いざ追い出す段になっても厳しさは変わらない。内ラチ沿いがスムーズに開くなんてことはまずないんだ。ほんの僅かな隙間にでも無理矢理、馬のハナ面を突っ込んで半ば強引にこじ開けるしかない。実はこれはボクの得意技でもあるんだ。」
(『野望ありマス』オリビエ・ペリエ)

 ペリエ騎手が外国人騎手にアドバイスをしているかどうかはともかく、勝負に貪欲で厳しい競馬に慣れている外国人騎手が内を狙うのは当然であり、もし、技術の未熟な騎手が内前にいたとしたら簡単に割られてしまうだろう(逃げ先行馬に乗る騎手もチェックすれば良いかもしれない)。
 日本人騎手にはもっと頑張って頂かなければいけないが、競馬ファンとしては馬券中心に考えるから、内枠の外国人騎手をしっかりマークすれば良いという話だ。それが人気薄の馬であれば、次からは外国人騎手に声援を送る立場になるだろう。

2010.04.25