競馬をある程度やってきて、コーナーでの距離ロスを考えるようになると、自然に枠順に注意が向くようになる。これは、中山コースや札幌コース、開幕週のローカルなどで顕著になる重要な予想要素であるから予想の視点としては成長していると考えられる。
 しかし、そうすると、そういう条件であれば内であれば内であるほど距離ロスは少なくて済むから、一番望ましい枠は1枠1番のように思えてくる。私も長い間そう思ってきたのだが、これには以下のような落とし穴があったのだ。

「私の経験からすれば、最内枠からの発走は、ふだんはおとなしい馬でもスタートの出が悪くなるものなのだ」
「なぜ、最内枠の馬のスタートが悪い傾向にあるのかというと、ひとつは、騎手が内枠からの発走だけに外からかぶされる前に早めに好位に取り付きたい、という心理が裏目に出てしまうとき。
 そして、それよりも大きいのが馬の精神状態である。両枠に馬がいる場合、ゲートの中で両隣の馬を見て、仲間が両脇にいることを確認すると安心して真っ直ぐ前に向いてゲートを切ることが多い。
 ところが、一番枠では片方には馬がいるのに、もう片方にはトラクターと人間しかいない。このため、最内枠の馬は他の枠よりも不安に駆り立てられてしまい、スタートをうまく切れなくなる、ということが考えられるのだ」
(『口笛吹きながら』野平祐二)

 上記は野平祐二氏が、最内枠に入っていたラガーレグルスの皐月賞での失態(スタートと同時に発馬機内で暴れ競走を中止した事件)を見て書かれたコラムの一部である。
 同氏はレース数の少なかった時代に1339勝もの実績を残した騎手であり、ミスター競馬と呼ばれた程の方の話であるから真実味がある。
 本書では、その一年前の皐月賞においても、ワンダーファングが1枠1番で発走除外となった件にも触れているが、この記事の翌年の2001年にはそれまで先行していたジャングルポケットが1枠1番から出遅れて3着に敗れ、2007年にはその仔であるフサイチホウオーが同じく最内から出遅れて3着に敗退した。また、振り返ってみれば2004年、行きたかったマイネルマクロスが痛恨の出遅れを喫してしまったのも最内枠でのことであり、出遅れに関してではないが、2009年には絶対的な本命馬ロジユニヴァースが1枠1番から惨敗した歴史もある。

 皐月賞にまつわる災難が多く思い出されるが、その他でも、最内枠で距離ロスなく回ってきてくれるだろうと期待して本命を打ち、後方に下がったままどうにもならなかったレースの思い出がある。
 2005年3月6日中山7Rのコスモラヴソング。個人的には、この馬を思い出せば、最内にリスクがあるというのは本当だと思わざるを得ない。

2010.03.16