SHP分析、各種分析で各種牡馬の産駒傾向を調べていると、初年度産駒と2年目の産駒で傾向が変わってくる種牡馬があることに気が付いた。アグネスタキオンやキングカメハメハがそうである。

 アグネスタキオンの初年度産駒は勝ち上がり率こそ良いものの2勝目が遠いと言われ、G1勝ちはNHKマイルCを勝ったロジックがいただけで、そのロジックを含めて大物感のある馬はほとんど出なかった。しかし、2年目にダイワスカーレット、アドマイヤオーラなどが輩出されると、クラシックの一線級を出せる種牡馬と認知され、3年目にディープスカイ、キャプテントゥーレ、リトルアマポーラが続いた。

 キングカメハメハの初年度産駒はフィフスペトルが函館2歳Sを勝ったくらいで、1400mくらいの短距離に適性を持つ馬が多かった。今後の活躍には疑問を感じたものだが、2年目になると、アパパネ、ローズキングダムを輩出。両馬ともピッチ走法の加速SHP馬なので距離の延長は良いとは思えないのだが、末脚の加速力と瞬発力で2400mの頂点オークス、ダービーまで対応して見せた。

 この変化について不思議に思っていたところ、野平祐二氏の著書に興味深い記述があったのでご紹介したい。

「まず重視したいのは種牡馬の年齢である。日本の競馬界にはよく鳴り物入りで輸入されながら、産駒の成績がさっぱりという著名種牡馬がいる。」
「(中略)これはその種牡馬にとって日本の風土が全く合わないという場合もあるが、ほとんどはトシをとり過ぎていることが原因になっている。」
「普通、サラブレッドは7歳で競走生活にピリオドを打ったとして、種牡馬らしい体つきになり良いこどもを出すようになるには四、五年かかるのが常識とされている。したがって、12~13歳から16~17歳までが種牡馬としての全盛期ということになる。」
「外国での種牡馬成績が華やかな馬ほど、その国での供用期間が長くなるのは当然で、ようやく日本へ購入できたときは、全盛期を過ぎてしまっている。」
(『野平祐二の新しい競馬』野平祐二)

 野平氏は外国から輸入する名種牡馬の不振についての理由を中心に述べているのだが、サラブレッドが良いこどもを出すようになるには4,5年かかると仰っている。自分はこの常識に触れたことはなかったが、先の事例からすると初年度より2年目のほうが良いこどもを出す可能性があることは証明されつつあると言って良いのではないだろうか。

 惜しいことにアグネスタキオンは早世してしまったが、4,5年目の産駒には今のところ大物はいないようで、2,3年目にダイワスカーレットやディープスカイを出したのならもっと凄いことになりそうなものだが、4,5年本格化説は正しいのだろうか。他の産駒を調べてみた。

 2003年に初年度産駒がデビューしたスペシャルウィークはどうだろうか。初年度は若駒戦で活躍した馬はほぼゼロ。ヒシシンエイが一番賞金を稼いでいた。しかし、2年目にシーザリオ、インティライミ、スムースバリトンが出現。3年目にグロリアスウィーク、4年目にオースミダイドウ、5年目にフローテーション、6年目にブエナビスタ、リーチザクラウン、7年目にレーヴドリアンが出ている。アメリカンオークスを制したシーザリオの活躍を見れば、2年目でほぼ本格化したと考えても良いかもしれない。

 スペシャルウィークと同期で種牡馬入りは1年遅れのグラスワンダーはどうか。初年度はフェリシア、シルクネクサス程度が、2年目にマイネルスケルツィ、サクラメガワンダー、3年目にマイネルレーニア、スクリーンヒーロー、4年目にスマートギャング、5年目にセイウンワンダー、6年目にコスモヘレノスが代表的産駒として出現している。2,3年目には本格化したと言えそうである。

 同じく同期のキングヘイローはどうだろう。こちらは2004年が初年度産駒のデビューとなっている。初年度からニシノドコマデモ、ウインクルセイドが、2年目にカワカミプリンセス、ゴウゴウキリシマ、3年目にローレルゲレイロ、5年目にアドバンスヘイロー、6年目にバシレウスが出ている。ニシノドコマデモやローレルゲレイロも優れた馬だが、最高傑作は2年目のカワカミプリンセスだろう。2年目に本格化したと考える。

 アグネスタキオンと同期で種牡馬入りも同期のクロフネ。初年度産駒がデビューとなった2005年にフサイチリシャール、シェルズレイを、2年目はマルカラボンバ、3年目にブラックシェル、オディール、4年目にティアップゴールド、5年目にベストクルーズを出している。一番活躍をしたのはフサイチリシャール、2番目がブラックシェルという感じで、これも4,5年目本格化説とは合わない。

 2007年に初年度産駒がデビューしたマンハッタンカフェはどうか。初年度はメイショウレガーロ、スマートカスタムくらいしかいないが、2年目にレッドアゲート、メイショウクオリア、3年目にレッドディザイア、ジョーカプチーノ、イコピコ、ベストメンバー、アントニオバローズ、4年目にダイワバーバリアン、ゲシュタルト、ヒルノダムールが出現。3年目くらいから本格化したように思える。

 最近の種牡馬を中心に見てみたが、これらからは4,5年本格化説は正確ではないように思える。むしろ、2年目本格化でも良さそうだ。引き続き、このような視点でもって新種牡馬の傾向分析を行っていきたい。

2010.06.29