昨年12月に出た判決について、なかなか取り上げることができませんでしたが、記載しておきます。まずは記事から。

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「外れ馬券は経費」再び確定 最高裁 予想ソフト不使用でも

 競馬の外れ馬券代を経費と認めず追徴課税したのは違法として、北海道の40歳代の公務員男性が、国に課税取り消しを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(菅野博之裁判長)は15日、男性の外れ馬券代を経費と認め、国の上告を棄却した。約1億9000万円の追徴課税を取り消した国敗訴の2審・東京高裁判決が確定した。
 判決によると、男性は2005~10年に計約72億円分の馬券を購入し、約5億5000万円の利益を得た。男性はすべての馬券代を経費として確定申告したが、税務署は当たり馬券代しか経費と認めなかった。
 外れ馬券を巡っては、最高裁が15年3月、独自の競馬予想ソフトを使い、中央競馬のほぼ全レースで馬券を大量購入していた別のケースについて、「長期間、網羅的な購入で、営利目的の継続的な行為」とし、外れ馬券代を経費と認めている。
 この男性は、ソフトを使わず自分でレース結果を予想して馬券を購入していたが、同小法廷は、男性が年間を通じてほぼ全レースで馬券を買うことを目指し、毎年約3億~21億円の多数の馬券を購入し続けた点に着目。「馬券購入の期間、回数、頻度などに照らせば、営利目的の継続的な行為だ」として経費と認めた。
 国税庁は「主張が認められず、残念だ」としている。

 ◆一般ファンは該当せず 
 15日の最高裁判決は、原告男性の大量で継続的な馬券購入を理由に、外れ馬券代を経費と認めた。だが、国税関係者は「極めて例外的なケース」とみており、趣味や娯楽として競馬を楽しむ一般のファンに当てはまることはなさそうだ。
 判決によると、男性は競馬予想ソフトを使わず、日本中央競馬会(JRA)に登録された全競走馬と騎手、競馬場の情報を収集・蓄積し、〈1〉馬の能力とコンディション〈2〉騎手の技術〈3〉コースとの相性――など七つの考慮要素をもとに各レースの購入パターンを構築。2010年までの6年間で毎年約1800万~約2億円の利益を上げた。JRAの登録競走馬は現在8000頭を超える。
 一方、外れ馬券代を経費と認めた15年の最高裁判決を受け、国税庁は、当たり馬券代しか経費と認めてこなかった従来の通達を改正。競馬予想ソフトで大量購入するようなケースでは、例外的に外れ馬券代も経費と認めることにした。15日の最高裁判決を受け、同庁の対応が注目されるが、別の国税関係者は「今後もすべての外れ馬券が経費として認められるわけではない」と話している。」(2017年12月16日 読売新聞)
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 当たり前と言えば当たり前なのですが、この判決が出たことは喜ばしいと思います。しかしながら、これは限定的だという議論もなされています。少し、整理しておきたいと思います。

 上記紙面では、「15日の最高裁判決は、原告男性の大量で継続的な馬券購入を理由に、外れ馬券代を経費と認めた。だが、国税関係者は「極めて例外的なケース」とみており、趣味や娯楽として競馬を楽しむ一般のファンに当てはまることはなさそうだ。」と論じられています。果たしてそうなのでしょうか。

 今回の最高裁判決は、「馬券購入の期間、回数、頻度などに照らせば、営利目的の継続的な行為だ」として経費と認めたとされています。男性は毎年3~21億もの馬券を購入していたということで、確かに一般ファンとはレベルが異なるのですが、「営利目的か」、「継続的な行為か」といった論点の解釈次第では、認められる範囲はまだ大きくなる可能性があります。

 既に今回、この男性の予想がソフトを利用しておらず、馬の能力とコンディション、騎手の技術、コースとの相性など7つの考慮要素をもとに購入パターンを構築していたということで、前回の裁判(卍氏)と比べると予想要素の厳密性という面で大分緩くなったように思います。普通にデータ予想でも説明できるレベルかもしれません。

 今回の裁判でも、一時所得か雑所得かの判断では、そのメルクマールである「営利目的か」、「継続的な行為か」が論点とされたようですが、根本のところ、国税の主張を認めてしまうとおかしなことになってしまうというのがあります。

 当方の見解は、そもそも国税の理屈は、自らが勝手に作った通達を根拠にして、課税対象者の懐に入ってすらいないお金に税金をかけようとしているのですが、これは担税力の観点から理屈が通らないと考えています。参考記事

 今後、今回の北海道男性よりも小規模で儲けていた人がいたとして、その人に税金を払えと言った場合、裁判所の判断は本当に変わるのか。つまり、大量購入はどこからなのか、線を引けるのか、「営利目的か」を判断するにあたって、金額の大きさが関係するのか、関係するならどこで線を引くのか、「継続的な行為か」の判断についても同様です。

 前回の裁判後に公表された参考資料のリンクを貼っておきます。
https://www.nta.go.jp/ntc/kenkyu/ronsou/81/02/index.htm

 2(7)イにおいて、馬券の購入による収益は、大数の法則により営利を目的とする行為に該当しないとしつつ、同(ハ)において、以前より私が指摘していたように、馬券の購入金額に対する払戻金額の期待値を、何らかの方法で100%を超えるものとすることができれば、そこに継続的源泉があるということができ、一時所得ではなく雑所得となる余地があると考えられる、としています。ただし、この論法による結論は、有効に資金回収率の期待値が100%以上となる馬券を選別できるモデルであることが必要とされることとなっていました。

 前回の裁判の判決を振り返ると、「独自の条件設定と計算式に基づいて」「長期間にわたり多数回かつ頻繁に」「個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入」によって「利益を恒常的に上げ」「一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有する」といった内容でした。

 今回の裁判で示されたのは、有効なモデルの存在についてはそれほどギリギリと問われないということ。ここが緩くなるとすると、ちょっと本気で競馬に取り組んでいるファン(税を負担する国民ですよ)に対して予見性を与えないという問題もあるように思います。年間でプラス回収であることを証明すればいいです、とかになるんでしょうか。これって、儲かっている人が得をして、損している人が更に損を被るということになって、競馬ファンに対して凄い不公平な取り扱いではないでしょうか。

 また、「網羅的な購入」については、総合的にプラス回収である場合、的中率は高ければ高いほど優秀な予想であることは明白なので、おそらく網羅的な購入は今後、要件ではなくなると思われます。

 「多数回かつ頻繁」については、線引きが難しいでしょうが、毎週一定の馬券を購入しているくらいであれば、斟酌される余地はあると考えます。

 この外れ馬券の経費の取り扱いの可否に係る裁判は、前述の「担税力の観点」に抵触する限り、(少なくとも最高裁までいけば)国税側が勝利するのは難しいと思われ、この線引きを明らかにするような裁判は国税側も避けるようになるのではないかと考えます。

 そもそもの一時所得の控除金額の見直しでもいいのですが、色々なツケが馬券ファンの迷惑となっているので、早く何とかしていただきたいものです。
 引き続き、馬券裁判関係は注視していきます。