本書は“(元)崖っぷちジョッキー”として知られる谷中公一氏の著作である。冒頭の自身の引退の理由をはじめ、競馬関係者でなければわからない話がたくさん記載されていて興味深い。何よりも、氏の競馬界を良くしていきたい、もっとファンに情報を公開すべきだという姿勢に情熱が伝わってくる。

 この本の中で谷中氏は、調教助手になって間もない頃の、期待をしていた牝馬に骨盤骨折をさせてしまった失敗について記述しているが、そこで、期待できる馬について、走法面からの記載があるので参考までご紹介する。

「どんな馬でも、乗れば前脚の「かき込む力」は伝わってくる。しかし、後脚の「蹴り上げる力」は、伝わってこないことが多い。彼女は後ろからの力も伝わってくる馬で、さらに背中もいい。
こういう馬は、素人目にもわかるほど、美しいフォームで走る。
 後脚がよく伸びれば、前脚を素早くかき込まなければならない。結果として脚さばきが速くなるし、ストライドが大きくなる。簡単に言えば、ダイナミックな走りになるわけだが、これは後脚によるところが大きい。馬の走る姿を見るときは、後脚がどれだけ伸びているかを見るといいだろう。」
(『ファンが知るべき競馬の仕組み』谷中公一)

 私の走法分析は第六期時代に、レースVTRの確認において走法を意識するようになり、若駒分析ナビゲーション主催者であるたまバス氏の見方を参考に考えたものだが、騎手のコメントにも合致している印象を受け安心した。持論の“ストライド走法であれば、より厳しい流れに対応できるようになり、クラスの壁に負けにくくなる”の真偽はともかく、後脚のほうが重要であるというのは確かなようだ。

 また、谷中氏の言葉の中に「背中がいい」という表現があるが、これは四肢がしっかりしていることを言っている。たまに騎手は「背中がいい」というコメントをすることがあるが、これは馬に対する最高の褒め言葉であり、隠して言わない騎手はいるかもしれないが、嘘をついて言う騎手はいないので、そのようなコメントはチェックしておいて損はないとのことだ。

2010.03.29