前回は少し精神論のお話をしました。私の予想にそのまま乗っかるほうが、時間をかけなくて済んで効率が良いと思われる方もいるでしょう、それはそれでも良いと思います。ただ、何かに頼っていれば、その情報が得られなくなったときに終わってしまうリスクがありますし、やはり競馬の深みを語れるようになって頂きたいと思います。

さて、今回は少し技術的な方向も進めていこうと思います。それには、競馬がどういうものであるかについて知って頂くのが先決です。

当たり前ですが、競馬は馬の競走です。人間の競走がそうであるように、馬の競走も、脚の速い馬と遅い馬がいます。2005年から2006年にかけて日本競馬界に旋風を巻き起こしたディープインパクトという馬は、他の馬よりも脚が速く、身体能力が非常に高かった馬です。彼は、日本の競馬では1回しか負けることなく、毎回1.2倍くらいの単勝オッズに応えていました。これを見れば脚の速さや身体能力が関係あることは疑いのない事実です。

絶対能力的な視点は、特に、短距離レースが多く、完成度の戦いになる2歳の若駒戦において重要となります。極端な例ですが、私がウサイン・ボルトと100m走をしたら、何回やっても勝てないのと同じで。

しかし、往年のカール・ルイス(持ち時計:9秒86)とウサイン・ボルト(持ち時計:9秒58)が100mで競走したら、いつ何時でもボルトが勝つとは言い切れないと思います。例えば、その日、ボルトが体調不良だったり、ここ1週間風邪を引いて練習をできなかった状態であったら、逆転も十分ありうるように思います。

また、カール・ルイスは100mである一方、ウサイン・ボルトは105mを走らなければならない条件だったらどうでしょうか。このようなケースでは、単純計算でもカール・ルイスのほうが先にゴールに到達します。

人間の競走では、セパレートコースが設けられ、各競技者にはそれぞれレーンが割り振られており、ゴールまでの距離を一定とした公平な位置からのスタートとなります。

しかし、競馬にはオープンコースです。スタートの発馬機はコースに垂直に置かれ、各馬は鼻面を一直線に並べられますから、スタート後のコース取りによって、実質的なゴールまでの距離が変わってきます。よって、内側を走る能力の劣る馬が、外側を走らされた能力の高い馬を逆転することができるのです。

このような距離ロスも、競馬場のコース形態によって発生しやすいコースもあれば影響が小さくなるコースもあり、また、開催時期と馬場状態によっても影響の大きさが変化します。

また、カール・ルイスやウサイン・ボルトも、長距離走になれば、ケニアやエチオピア等のその道のトップクラスには到底敵わないでしょう。筋肉の質によって、向き不向きがあるのです。同様に、箱根駅伝で山登りを任され、毎回ごぼう抜きで3年連続の往路優勝を達成した東洋大学の柏原選手のように、坂を得意にする馬もいれば、苦手な馬もいます。こういった馬の個性(あるレース条件に対する巧拙を示す概念を「適性」と言います)の視点も重要になります。

予想を行う時の着眼点(私は「予想要素」と呼んでいます)は、血統、スピード指数、騎手、調教、パドック、馬体、過去の成績、ラップ、条件、枠順、オッズ、出目、サインなど様々です。

基本的なものとして、上述の「体調」を見極める方法が、調教やパドックや馬体という予想要素であり、「絶対能力」を見極める方法がスピード指数やラップという予想要素であり、「距離ロス」を見極める方法が条件や枠順であり、「条件」に合う適性を見極める方法が血統や調教、馬体、過去の成績です。

予想には盛り込める要素に縛りはなく無限であり、オリジナルの馬券術を作ることができるので、それが競馬予想の魅力になっていると思いますが、まずは多くの予想者が採用している“基本”を理解して頂きたいと思います。

なお、私は、予想者が作り出すオッズ、後出しになりがちなオカルト的手法である出目、サイン(タカモト式)は客観的合理性を得られにくいためおすすめしません。

2011.06.23