前回までに、能力の診断方法・予想観点には、大きく分けて、

1.タイム(A.全体の走破時計や、B.上がり3ハロン(最後の600mのこと)の時計)の速さ
2.展開・ラップ
3.相手関係

などがあるとご紹介しています。

今回は、1.の「B.上がり3ハロン(最後の600mのこと)の時計」についてご説明していきましょう。

競走馬の走破時計(a.全体の走破時計)が、ほぼ全力疾走で行われる短距離戦における有効な能力診断手法であることは既に述べたとおりです。ここで求められている競走馬の能力はほぼスピードとイコールです。

しかし、距離が長くなるにつれ、単純に全速力で速く走れれば最大パフォーマンスが出せるわけではなくなります。人間の競走でも、長距離を走るための筋持久力(スタミナ)や途中、力をセーブして走る冷静さ(折り合い)の重要さが増していきます。

マラソンを想像して頂ければ容易に想像がつくと思いますが、最初から全速力で走ったら、後半バテてしまって、ゆっくりセーブして走るよりも走破時計はかなり遅くなってしまうでしょう。心臓が苦しくなって、途中棄権のような事態にも陥りかねません。

距離が延びれば延びるほど、力をセーブして走る距離も長くなり、その時のスピードも緩やかになります。その一方、マラソンで、先頭集団の一人がどこかのタイミングでスパートをかけるように、競馬でもセーブを解き放って、最後の脚力(「末脚」といいます)勝負が起こります。末脚勝負は残り3ハロンから2ハロン(残り400~600m)くらいから始まるのが通常です。

距離が長くなり、道中の展開がスローペースになればなるほど、強い馬は道中の流れに付き合いつつ、能力をセーブ(「脚を溜める」といいます)でき、競走馬の能力は最後のスパートである「末脚」に凝縮されます。

まとめますと、馬の強さの概念は距離が長くなればなるほど、スピードだけではなくなり、末脚やスタミナ、折り合いの影響が増してきまして、馬の能力は走破時計ではなく、上がりの時計(3F)の速さを見れば良いということになっていきます※。

これを覚えておけば、短距離でとても強い馬が、距離延びて惨敗してしまうことも納得して頂けるでしょう。

※ ただし、全体のペースが遅くなりすぎると、全馬が直線まで余力を残せるため、純粋能力順ではなく、末脚の加速力やトップスピードの高い馬の順にゴールしてしまうことがあります。
※ 上がり3ハロンの速さも、競馬場の違いや馬場状態によって時計の出方が変わります。
※ 末脚の速さの上限は馬の個性であり、これが低い場合、ハイペースのほうが力を発揮できるようになります(私はタフ系SHP等と呼んでいます)。このあたりは中級者以上からで結構です。

2011.06.30