「冷静に見れば、そういう瞬間に、ある刺激に接して「見え方」が一度に変わるのには必然性がある。偶然ではない。 けれども、本人にとっては、それはあくまで奇縁であり、奇跡である。あのときに、あの風景、あの人、あの言葉に接したからこそ、「見え方」が大転換したという記憶が、自分の生涯におけるささやかなひとつの奇跡として記憶されることになる。そういう奇跡の訪れは、生きるロマンの最高のものである。」(岡本浩一「上達の法則」より)

上記は以前、HPで紹介した文書です。
真剣に競馬予想に取り組んでいる方であれば、競馬予想についてもそういった大転換を起こした瞬間があるでしょう。

私にとっては、馬柱のみを見て予想をしていた時代からアナログ予想へ切り替えるきっかけとなった瞬間、が近いところでは思い出されます。

2004年頃に執筆しました「予想真髄」の記事において、自分のレースを見ないデータ予想を「異端」扱いし、レースを見て予想をする方を「正統派」と呼んでいるあたりにも、その魅せられた瞬間を感じ取ることができます。

さて、先週末の日本ダービー。現地には、勝ち組の勝利指針の川島さんや若愉メンバーらが集結しました。

今回、お会いできるのを楽しみにしていたのが関西在住のエノさんでした。彼は馬体派ですが、走法にも長けていまして、予想要素における中心点が馬体からやや調教に寄っている(もちろん馬体もかなり見られる)方なので、お話されていることの一部に以前から共感していました。

パドックでお声掛けして評価を聞いてみるなど注目していたところ、オルフェーヴルの返し馬を見た時、彼は周囲を憚らず、オルフェーヴルの勝利を確信したことを快活な関西弁で宣言しました。

返し馬を見ただけで、その馬の勝利を確信できることがあるのか、不思議に思われる方のほうが普通だと思います。初見では、私も何も感じなかったかもしれません。しかしながら、私はその時、オルフェーヴルの走りを見ながら、3年前のダービーがフラッシュバックしたのです。

3年前のダービーでは、私は指数中心で予想をしていました。当時はアグネススターチとディープスカイが並んだ1位だったことから、より人気のないアグネススターチに本命を打ち、今年のようにレポートを合作していたワックスムーン氏と現地観戦をしていました。

ふたりで返し馬を見ていたところ、アグネススターチやサクセスブロッケンは走り方に小物感がある一方、ディープスカイは初心者の目で見ても明らかに違いがわかるほど素晴らしい走りをしていることについて話し合いました。ダイナミックなストライドでありながらしっかり滞空して前に推進している、爽快なフォームと表現すれば、少しは伝えることができるでしょうか。

ワックスムーン氏はディープスカイの勝ちを確信され、スマイルジャックを盛り込んだ1着固定3連単で20万馬券を的中されました(私は本命を変えるわけにもいかず、3連複のみで負けたような思いをしました)。

その時のディープスカイの残像が、オルフェーヴルの返し馬に被って見えたのです。そして、これをしっかり選別できるエノさんの格好良い宣言が付け加わり、大きな衝撃を受けました。

返し馬そのものを予想要素にするのは難しいにしても、調教動画やある程度の馬体を予想要素に採り入れなければ、更に上には行けないことを痛感し、それを学ぶモチベーションにつながりました。今回の衝撃が、冒頭の奇跡の瞬間であるような予感がしています。

2011.05.31