競馬予想と将棋に似た部分があるというのは時折感じるところで、よく比較対象として引き合いに出しているが、ひとつには、競馬予想における買い方と将棋の次の一手における「最善」について、自身の頭脳をかけて答えを導き出す行為、そしてそれを繰り返し行っていくことに共通点があるのではないだろうか。

 ある局面(出馬表)をテーマに、どのような手(買い目)がベストかを、己の知識・経験を駆使して結論を出す。そして、最終的な勝敗は出るが、その時の選択が正しいか間違いか、結果に対して直結したかしないかも、関連しつつも明確には言えない場合が多い。その奥深さが競馬予想と将棋に共通した大きな愉しみであると思われる。

 選択を行う際には、基本的には定跡や自分が研究した理論に基づくが、最終的な判断に直結するのは「直感」である。予想家の中では、木下健氏が「勘」という言葉を多用したり、若駒分析ナビゲーションでご一緒したたまバス氏も「直感」重視を公言していたし、私自身も理論で行き着く先には未分化のアナログ的な判断や、その時の思いつき(流れ)によって変化する部分があると認識している。

 私は棋士の本もよく読むが、羽生氏の最近の著作「結果を出し続けるために」においても、次の一手の決断プロセスとして、「直感」、「読み」、「大局観」の3つを挙げているように、やはり「直感」は重要な選択における判断要素になるのだろう。

 直感は言語化が難しい感覚で、普通に考えていることとどのように区別されるものかすら説明困難だが、先週、その存在を裏付ける発見についての新聞記事が少し前に掲載されているのでご紹介させて頂きたい(記事へのリンク消失してしまったので全文引用させて頂く)。

<将棋>プロ棋士「最善の一手」 脳の2カ所が活性化…理研
毎日新聞 1月21日(金)4時0分配信
将棋のプロ棋士が「最善の一手」を直感的に見つける時に働く脳の部位を、理化学研究所脳科学総合研究センターなどのチームが世界で初めて特定した。アマチュアには見られない現象で、プロならではの直感をこの部位が生み出しているらしい。21日付の米科学誌「サイエンス」に発表した。【西川拓】

理研は日本将棋連盟の協力を得て、羽生善治名人らプロ棋士延べ約60人に詰め将棋を解いてもらったり、将棋の盤面を見た時の脳の活動を、機能的磁気共鳴画像化装置(fMRI)で調べた。それを、平均年齢が同じアマチュアのグループと比べた。その結果、プロは盤面の状況を素早く把握する際、後頭部に近い大脳皮質にある「楔前部(けつぜんぶ)」が活発に活動。その後、短時間(約1秒)で次の一手を探す間には、大脳基底核の「尾状核(びじょうかく)」が活発に働いていた。どちらもアマチュアではそれほど活動しなかった。

チェスの場合、アマチュアが多数の手をしらみつぶしに読んで決めるのに対して、トッププロは最初に最善の手が直感的に浮かぶことが知られている。今回、将棋でも同様のことが裏付けられた。

尾状核は、ピアニストがピアノを弾く時の指運びなど習慣的な運動をつかさどる部位で、判断など思考に関係するとは考えられていなかった。棋士が直感を身に着ける過程で、二つの部位の間の神経回路が発達すると考えられる。

同センターの田中啓治チームリーダーは「プロ特有の強さの一端を解明できた。この種の直感は訓練によって高められるので、さまざまな分野のプロ養成法開発などにつながるかもしれない」と話している。

 常人には体がどうなっているのか理解できないピアニストの洗練された正確な演奏と、プロ棋士の最善の一手を選ぶ直感が脳内の同じ部位によって司られているらしいことは人間の神秘であるが、そうすると、競馬においても、「楔前部」と「尾状核」を駆使した予想が、常人には理解できないレベルの領域に入れる可能性があるということになるのかもしれない。

 今回の調査では、直感の存在証明にはなるかもしれないが、どのように直感が鍛えられるかという点については今後の研究のテーマになるのではなかろうか。想像するに、地道な反復訓練が大前提として影響しそうなのと、更にプロとアマの差を生じさせる何らかのプラスアルファがあるのではないか。

 さて、羽生氏は前述の著書で「読み」以外のプロセスを「直感」と「大局観」に分けている。

<直感に関する記述(一部引用)>

「一つの局面で指せる手は、平均して八〇通りくらい存在すると言われていて、全部を考えていると、あっという間に日が暮れてしまいます。ですから実際には、八〇通りの中から二つか三つの可能性だけを考えています。このために「直感」というものを使って、残りの七七通り、もしくは七八通りの手を瞬間的に捨て去っているのです。」
「最近のカメラはオートフォーカスで、ピンボケしないように自動的にピントを合わせてくれますが、それを自然にやっているような感覚です。」

<大局観に関する記述(一部引用)>

「具体的な手というよりは、方針や方向性を考えるという、もう少し抽象的なものです。」
「経験を積めば積むほど、大局観の精度は上がっていきます。また、大局観には、一つ目に挙げた「直感」と、似ているところがいくつかあります。①ある程度、数をこなすこと、経験を積むことが、直感や大局観を磨くうえで重要であるところ、②感覚的なものであり、なかなか具体的な表現が難しいところ、③(これも感覚なのですが)微妙なバランス、さじ加減が求められるところ」
「若いうちはそうした大局観がありません。しかし、体力があるので、とにかくがむしゃらに手を読みます。そして年齢を重ね、経験を重ねて大局観を身につけてくると、方向性に合わない手を捨てることができるので、大筋で間違っていない手を選択することができるのです。」

 これを読んで、自分の予想における実感から想像すると、羽生氏の言う「直感」は、アマでも普通に行っている技能であり、羽生氏の言う「大局観」こそが新聞記事の、プロとアマに差を生み出している「直感」なのではないかという気もする。

 いずれにせよ、羽生氏の「大局観」も“経験を積めば積むほど、精度は上がっていく”と記述されていることから、「大局観」的な要素も含めた広い意味での「直感」を鍛えるためには「読み(予想理論)」に沿った反復継続の訓練が必要であると考えられる。

 また、ただ馬券を買ってお金を殖やしたいという方は直感重視で良いが、プロなど有料で予想を発信する立場にいる人は、自分の予想の説明ができることが望ましく、直感を予想理論に言語化して表現することが求められる。

 以上により、予想のレベルアップ(及び芸術化)を目指すには、より正しい予想理論を身につける等、一定の判断基準に基づいた反復訓練を行い、将来的に「直感(大局観)」を形成する基礎作りをしていくのが望ましく、そのような観点から、競馬予想においては「予想理論」も「直感」と同様に重要な課題として捉えられる必要があるものと考える。

(ブログ・H21.1.26)