今回の競馬の税金の関係で、もう少し調べてみたいと思います。
一時所得という課税区分が所得税法において設けられたのは、1947年の所得税法第二次改正時でした。

これは、従来の制限的所得概念(一時的・偶発的利得を所得から除外する)から包括的所得概念(一時的・偶発的利得も所得に含める)に、考え方を変えたことによって導入されたのですが、それは、利得者の担税力に着目し、個人の経済的な全ての利得を課税の対象にしたほうが公平負担の原則に沿うとの発想によります。

(参考)
昭和24年04月25日:衆 大蔵委員会 – 21号 抜粋
○平田(敬)政府委員 一時所得に対する課税につきましては、実はなかなか理論的にも、また実際的にもむずかしいところがありまして、外國の制度等におきましても、いろいろ違つた扱いをしておるようでございます。でございますから、少くとも一時所得にも担税力ありとして課税する方がいいだろうということは、今日大体定説にさえなつております。

昭和29年03月25日:衆 大蔵委員会 – 28号 抜粋
○渡辺政府委員 所得税を課税いたします場合におきまして、その場合の所得とは何かという点につきましては、これは根本的にいろいろ議論して参りますと、相当問題のあることであります。従つて日本の税法におきましても、当初におきましては、財政学の上でいいますと源泉説と呼んでおりますが、いわゆる一時的な所得はこれを所得に見ないで、継続的に繰返される所得を所得税の対象とする、こういうような考え方でずつと進んで参りましたことは、これは内藤委員よく御承知の通りであります。しかしいろいろ税負担の点を考えて参りますと、その継続的な所得だけを担税力ありとして所得税の対象とするのではどうも不十分である。そこでその次に考えられましたのが、一時の所得に対しましてもやはり課税して行くべきではないか、大分アメリカ等でもそういう考え方が出て参りまして、これが広がつて行つた。日本の所得税法におきましても、そういつた意味で、いわゆる一時の所得、それが現在におきましては譲渡所得、一時所得という名前で取入れられて来ていること、これまた御承知の通りだと思います。

昭和36年03月30日:参 大蔵委員会 – 18号 抜粋
○政府委員(村山達雄君) 所得税の体系としまして、毎年心々いわば回帰的に発生する所得だけを課税するか、あるいは一時所得、一時に発生する所得、それから譲渡所得もその一時所得の一形体でございますが、そういうものまで課税するかということにつきましては、非常に論争のあるところでございます。しかしながら、世界の税制の大勢を見ておりますと、漸次所得税というものはやはり全体の所得を総合して初めて担税力がわかる。ただ、累進税率でございますので、それぞれの所得の種類に応じまして、それぞれ適当な調整をつけるということはもちろんでございますが、一般的に申しますと、全部の所得を課税するという方向でございます。ただ、英国は伝統的に一時所得には課税しない、こういう方式をとっておりますが、その他の国では大体総合の方向に向かっているわけでございます。
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上記は全て当時の大蔵省主税局長の発言ですが、担税力の視点から、一時所得を含めた、個人の総合的な所得について課税しようとしてきたことがわかります。

これだけでも、今回の裁判において、男性の担税力を遥かに超えた、実際に儲けた金額を大幅に上回る脱税を訴える検察側・国税当局の主張はおかしいと思えます。

前回の記事で紹介した国税不服審判所の事例で、同様の主張が棄却されていますので、地裁では負けてしまう可能性もありますし、いずれにせよ実際に得た純利益分の税は払わなければならないでしょうが、今回の裁判は最高裁まで争う価値があるように思います。

もうひとつ、競馬の一時所得にかかる以下のやりとりをご覧下さい。

(参考)
昭和56年05月27日:衆 大蔵委員会 – 31号 抜粋
○沢田委員 これで終わりますが、これは税金のことであります。
 一時所得の解釈からいきますと、遺失物、競馬のもうけも一時所得、個人的に金を貸してその利息を取れば雑所得になるわけです。

○沢田委員 段階的に考慮していただくことは結構ですが、競馬、競輪なんかどうやって把握するのかということを聞きたいのです。株の売買で把握がむずかしいということを言いながら、競馬、競輪のもうけを一時所得に参入するということを考えているというのは、どうやって把握するのか、把握の困難さは同じだと思うのですよね。

○高橋(元)政府委員 いまお示しのありますような、金を拾ったとか、常連として毎回競馬、競輪に行きまして相当大きな払戻金をもらったということでなければ、御承知の五十万円という控除額がございます。その中に入ってしまいますので、大多数といいますかほとんどの方は申告義務は恐らくないのだろうと思います。
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これも大蔵省主税局長の発言ですが、ほとんどの方は関係ないと言ってしまっています。これを聞いたら、一般の競馬ファンは自分には関係のない話だと思ってしまいますね。当局はこの制度で多くの競馬ファンが該当するおそれについて、認識しておりません。

ただ、気がついたのですが、この答弁も法律ができた頃だったら問題ないのです。消費者物価指数を基に計算される、現在(平成23年)と昭和22年の貨幣価値の違いは15.9倍。当時の一時所得の控除額(=50万円)は現在の795万円に相当します。これを超える収益を得られる常連はそれなりに絞られるのです。
※上記の委員会が行われた昭和56年時点での貨幣価値は消費者物価指数で計算すると1.2倍にすぎないので、不適切な発言であったことに変わりはない

一時所得の控除額を、制度整備時からずっと見直してこなかったのが法の不備と言えそうです。

まあ、一時所得の控除額を改正するのはかなり大きな話になってしまうので、銀行口座を通じた馬券購入金額を経費に認めるとか、過去の運用との整合性を取るのが難しければ、これを機に馬券による収益には追加的に課税しないこととする法改正のほうが良いのでしょうし、我々ファンとしても問題はないと思います。

最後に、必要経費に外れ馬券を算入できない理由について述べられている箇所をご参考まで。

(参考)
昭和57年02月25日:衆 予算委員会 – 18号 抜粋
○小川(国)委員 (中略)まず、大蔵大臣と行管長官に伺いたいのですが、私がさきの国会で、中央競馬会の三千億という剰余金の中から直ちに千五百億円というものの国庫納付が可能である、こういう提案をいたしました。私は、私の友人の公認会計士あるいは税理士、そうしたグループとつぶさに中央競馬会の決算書全体を検討する中でそういう提案をしたわけでありますが、どうもそうした私の提案が鈴木内閣の中では真剣に取り上げられていないような感じがするのであります。この点について大蔵大臣、行管長官、それぞれこうした問題についてどういう取り組みをなすったか、まず御答弁をいただきたいと思います。

○渡辺国務大臣 せっかくの御提案ですから、耳寄りな話でもございますし、私としては鋭意実態を調べるように言っておいたわけでございます。(中略)
 それじゃ、何かギャンブル税でもできないかということで検討もしてみたのです。ところが、ギャンブル税といったって、売り上げにかけるといっても、いま二五%も取っている。したがって、それ以上高くテラ銭はねているところは世界じゅうない。ほかは一五とか二〇くらいだ。お客離れしちゃう。それじゃ、勝った人にだけかける方法はないか。馬券を買ったらその馬券で大当たり、何万とか何百万とか入ったら、その半分だけは直ちに所得税の対象、一時所得としたらどうだ。ところが、一時所得にすることはできる。しかし、一時所得というのは必要経費を認める。そうすると、負けた連中が馬券をいっぱい散らしてあるから、そいつを拾っていって、これだけ使ってこれだけ勝ったんだということになると利益がなくなってしまうし、おまえのものじゃないじゃないかという証拠がないということで、実際そういうことで、そうかということで時間切れということでございます。
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本件について、グリーンチャンネルにおいて、ラフィアン総帥の岡田繁幸氏は「理不尽だ。JRAのスタッフに期待する」と言及され、社台の吉田照哉氏も「Win5買う人がいなくなるよ」と同調していましたが、関係者で表に出て活動しているような方はいなさそうで、JRAも沈黙したままです。水面下では改善に向けて協議がされていれば良いのですが…。

パチンコはグレーのまま税金を取ることもせず、馬券購入者から更に巻き上げようということになるならば、結構な競馬ファンの私でも、夢を買うギャンブルとして興ざめですし、競馬予想芸術化の活動意欲も引いてしまいそうです。もう、祈るしかないですね。

2013年02月08日