一般的に、競馬はギャンブルであり、ギャンブルは長期的に行えば必ず負けるようにできていると考えられていると感じています。もしその考えが本当であれば、お金を増やすことを目的としてギャンブルを行うことの客観的合理性は否定されてしまっても仕方がないかもしれません。しかし、競馬は結果に偶然性が介在するためギャンブルであることは間違いありませんが、ギャンブルの全てが長期的に必ず負けるという証明はできず、競馬は必ず負けるとは言えないほうに属しています。

 この点については、ある程度競馬がどのようなものかを理解されている中級者以上の方々には感覚的にわかることでしょうし、私の情報発信を以前からご覧になっている方には冗長的なテーマになりますが、予想技術の存在を証明しておくために必要であり、競馬で勝つことを諦めてしまっている初級者の方や、金銭的に必ず負けることを理由に敬遠されている方(特に、それがゆえに競馬に対して偏見を持たれている方)に正しい認識をお持ち頂きたいと思いまして、改めて説明させて頂きます。

 競馬を含むギャンブルが必ず負けるようにできていると主張される方(以下、「必敗論者」という)の根拠としては、ギャンブルには胴元の取り分の割合である“控除率”が存在しているために、長期的に行えば“大数の法則”により控除率の分だけ負けてしまうからと言われます。この法則によって基本的に競馬は負けるようにできているという主張は、負けたら掛け金を上げることで(資金が底をつかなければ)必ず勝てるというマーチンゲール方式及びそれに類似した投資競馬系の馬券術を支持する層、ベストセラーとなった馬券本を執筆した会計士、『ツキの法則』を著したギャンブル研究者として著名な谷岡一郎氏等によっても説かれているなど、競馬予想界において一定の範囲で信じられていると思われます。

 大数の法則とは、例えば、ひとつの面が正方形である6面体のサイコロを投げる場合において、サイコロを投げる試行回数を限りなく増やせば、その中のひとつの面が出る確率は1/6に限りなく近づくという理論です。つまり、サイコロ投げにおける帰結と同様に、約25%の控除率がある競馬においては、馬券を買えば買うほどその回収率は控除率をマイナスした75%に近づくというのが必敗論者の主張になります。

 これに対し、現実に勝っている人が存在していると言っても反証になりません。確率・統計理論には分散という概念があり、必敗論者は勝っている人を“今はたまたま勝っているだけであり、長期的にはやはり回収率が75%程度に収束する”とみなします。ただし、この論点においても、「長期的」の定義、つまりどれくらいの頻度や金額で馬券を買った場合にいつ収束するのかが明確にできないことから、確率・統計理論においてもある人がその生涯において競馬成績が必ずマイナスになるということを証明できないはずです。

 しかしながら、それ以前の話として大数の法則を競馬に敷衍する考え方が誤っているのは、大数の法則が成り立つには、“期待値が固定された条件でそれを繰り返す”という前提がなければならないからです。

 2005年の日本ダービーを例にとってご説明しましょう。このレースの出走馬は18頭、フルゲートでした。このレースでいずれかの馬1頭の単勝を100万円ほど購入しようと考えているとします。1番人気はディープインパクトで単勝オッズ1.1倍。当たっても10万円しか増えません。もし、競馬がサイコロを振るだけのような偶然のギャンブルであれば、このような倍率に賭けるメリットはありませんから、単勝万馬券の大穴に賭けて1億円を皮算用したほうが良いかもしれません。しかし、このレースでディープインパクトは2着に5馬身差をつけて勝利し、無敗での2冠を達成しました。

 競馬は1つのレースが5頭から18頭で行われていますが、例年、年間の1番人気の勝率は3割以上となっています。当たり前ですが、競馬では出走頭数の数の面を持つ正多面体のサイコロを振るような単純な確率で結果は出ず、能力などが結果に反映しているのです。目の肥えた競馬ファンが能力の高い馬を買うからそのような馬のオッズが安くなり、実際に3割以上は勝利しているということです。能力が結果に反映するのであれば、能力を見極める技術が馬券成績に影響を与えることになり、技術が介在するということの証明となります。

 先ほどの日本ダービーの場合でイメージをするなら、18頭なので18面体のサイコロを振っているとしても、全ての面の大きさが異なっていて、ディープインパクトの面がとても大きかったということになります。

 しかし、面の大きさ(勝利する確率)がそれぞれの馬によって異なることが理解できても、これはオッズと完全に比例しません。ご承知のとおり、オッズは私たち一般のファンが作っています。私たち競馬ファンは、正確に各馬の馬券に絡む可能性を測れません(もし、自分の見立てが神の領域に入っていると自負される方がいたとしても、他人が同等の評価ができるとは思わないでしょう)。この結果、“期待値が固定された条件でそれを繰り返す”という大数の法則の前提は成立しないことがご理解頂けると思います。

 1番人気が3割勝っているという件にしても、堅い1番人気もいれば危ない1番人気もいます。その判断は、予想する側の技術によって変わります。優れた技術を持てば、危ない人気馬だけを買わないという選択ができ、平均的な回収率である75%以上の回収率を維持することができても全く不思議はありません。技術が高くなれば80%を90%にできるかもしれませんし、100%を超えることもできるかもしれません。競馬で言えることは、長期的にも短期的にも、勝てる人もいるし、負ける人もいること、負ける人たち全員分の損失は勝てる人たち全員分の利益よりも大きいことくらいです。厳密に言えば勝てる人がいない可能性も含まれますが、勝てる人がいることを否定はできません。

 今や、ネットの普及や環境の変化で予想技術の向上は目覚ましいものがあります。馬の個体能力を精度良く見積もる指数理論は発達していますし、トラックバイアスやブラッドバイアス等の正しい技術を身につければ、的中率と回収率を高めることができる時代になってきたのです。

2010.08.10