競馬予想界には、インサイダー情報等によって高確率で馬券が的中する等とうたい、有料(高額)の予想を提供するという詐欺的な予想会社や個人(以下「悪徳業者等」という)が存在する。競馬詐欺の被害は近年増加し、2011年には国民生活センター及びJRAが注意喚起を行っている(注1)。悪徳業者等の手口(的中馬券の偽造、顧客情報の共有、元業者の証言、業者との電話応対の現場等)はTV報道もされているが(注2)、オレオレ詐欺のように年々巧妙に進化しているようである。

 折角、競馬に興味を持った人たちが、悪徳業者等の詐欺によって経済的な痛手を被って退出してしまうことや、八百長やインサイダー情報などがまかり通る世界であると誤解されてしまうこと等、悪徳業者等が蔓延ることで競馬やその予想者のイメージが悪くなることは、ファンとして遺憾であり、私の競馬における活動の目的である「競馬予想の芸術化」において、競馬及び競馬ファンの社会的地位の向上を掲げている以上、改善されるべき課題として認識している。

 悪徳業者等を撤退させるためには、悪徳業者等を1件1件摘発するよりも、騙される人を可能な限り減らしていき、儲からないようにしてしまうほうが効果的である。なぜなら、摘発には弁護士に相談する等の費用や時間のコストがかかる上、ようやく1社を撤退に追い込んだとしても、そこに甘い汁が吸える構造がある限り別の悪徳業者等が参入してくるだけと考えられるからである。競馬情報販売業については、現状、特別法となるような規制が存在せず、許可や登録等も不要であり、このような詐欺は警察でしか取り締まることができないのだが、明らかな詐欺でなければそれも難しい状況(注3)であり、再犯を防ぐことも難しい(悪徳業者等の名称を公表しても、社名を変えてしまえば済んでしまう。登録制等にすれば、過去に詐欺業者を運営した者等を管理し、排除することも可能となり、一定の効果は期待できる)。業者規制を設けることが現実的でないとすれば、当面は自衛のできる環境を整備する方向で対策を練るべきである。

 悪徳業者等が騙しを行う手口としては、
A.無料会員登録等によって、お金に困っている人や、競馬でお金儲けをしたい人を見つけ出す
B.(関係者情報等を語ることによって、)必ず儲けられるレースがあることを信じ込ませる
C.情報料が有料(高額)、限定的となることを納得させる
D.上位のコース等への誘導等により二次的な利益を求める
というのが典型例なので、これらに係る問題点と可能な対応策を考えていく。

 A.については、そういう甘言に引き寄せられる人もいるのが世の常であり、一定程度の人が無料情報への登録を行いDM等が頻繁に届けられるようになってしまうのはやむをえないと考える。この時点では、大きな被害には至らないので問題はないが、こういった無料情報で顧客候補名簿が作成され、関連会社に情報共有されているということは知っておくべきである。

 B.については、「事前に着順が決まっているレースは存在しない」ことの認識をより広く共有する必要がある。馬は動物であり、騎手はその動きの全てをコントロールすることはできない。時速60キロというスピードの中、着差がコンマ何秒という世界で着順まで必ず指示通りに入ることは無理というものである。もし、八百長がばれてしまえば、競馬界から追放されることも余儀ないところであるから、難関の競馬学校を卒業し、晴れて騎手という職業に就きながら、そのような行為に手を染める可能性は低いと理解できる。また、故障等のアクシデントが起こらない保証がないことからも明白であろう。

 予想業者等は、一定程度以上の精度がある予想(すなわち、価値のある予想)を行うことができるはずだが、それが必ず的中するものではないから、予想情報を他者に提供することで対価を得ることが合理的な行動となるのである(このため、予想に価値がなく、予想を販売することがすなわち悪徳であるという考え方も間違っている)。もし、必ず的中できるレースであれば、他者に提供して対価を得るよりも、そのレースの馬券を大量に購入して儲けるほうが合理的な行動と考えられる。もし、絶対的中できるレースがあるといった勧誘を受けた場合には、この論点から相手の矛盾を指摘することが可能だ。

 競馬に絶対がないことを周知するためということでもないだろうが、これまで、サイン馬券術等の客観的合理性の低い予想法が一定の評価を得て、「予想は(逆さに読んだら)ウソヨ」という言葉にもあるように、予想の合理性自体を軽視・否定することが多かったように思う。しかし、これでは、「競馬は事前に着順を必ず的中できるものではないが、予想技術によって、事前に着順を当てる精度を高められる知的芸当である」という、予想自体の本質的な魅力を伝えることができないというジレンマが生じる。

 C.については、必ず的中することを信じ込ませれば、高額の情報料でも支払わせることが可能であろうと思われる(B.における問題点)。また、競馬情報の提供においては、他者が相乗りするとオッズが下がる等と言って、情報公開に消極的で、顧客に定員を設けたり、購入金額を指定したりしていることが一般的である。この方法はパリミチュエル方式の配当方法では合理性があり、価値があるものを公開せよというのも難しいものだが、何も公表しなければ、優良な予想技術を持っているかいないかが、入会してみなければ客観的にわからない状況となる。このような状況下では、悪徳業者等が自身を優良業者であると思わせるような外観を作りやすい環境となってしまう。

 D.については、「別の高額コースでは的中していました」「返金は、次のレースにも参加してもらわなければ応じない」等といって、追加で高額の支払いを求める手口がある。私が無料で予想配信を行っていたところ、「もっと当たる有料コースに入会したい」といったメールが寄せられたことがある。競馬情報会社に浸かっている人は、有料(高額)が予想の信頼度の高さだと思うのかもしれないが(実際、予想家にとって自信度の高低があるにせよ)、そのような発想は、このような手口に対して危うい。競馬に絶対がない以上、予想の金銭的価値には一定の上限(例えば、私は1レース最大5千円程度と思う)を念頭に置いたほうが良い。

 さて、悪徳業者等の手口について確認したところで対応策を考えたい。第一には、競馬において(事前に着順が確定する)八百長が行われるというような嘘が簡単に信じられないように、より明るいイメージを醸成していくべきであり、良い予想は隠されるものでなく、より透明化されている知的芸当であるという認識を拡大していくことが有効であると考える。具体的には、「我こそは優良予想家である」と思う者は、悪徳業者等と似た外観にならないよう差別化を図り、悪徳業者等が客観的に見出されやすい状態を作るようにしてはどうだろうか。差別化については、予想の一部や予想文を事前に無料公開すること、予想実績を広告にする場合には、無料公開の予想を累積した数値を用いること等が考えられる。前述の情報公開をしていれば、会員になるかを検討している人が、業者等の実績を自分で確認することができ、自己責任を問うことができる。

 予想(技術)の公開については、予想者の優位を低下させるものであるから、賛同できないという意見も多いと想像される。しかしながら、予想が知的芸当であることの認識を広め、競馬予想の文化的価値を高めるためには、予想技術を証明するある程度の情報公開が必要不可欠である(全ての予想技術の情報公開をすべきというものではない)。この点については、現状、予想技術を公開する者のメリットがほとんどないことから、何らかの環境整備が望まれる(将棋におけるタイトルや段位のようなものによって、予想公開者の地位が向上する等)とともに、競馬関係者の方や競馬メディアの方が、このような私利にとらわれず競馬予想の文化的価値を高めようとする活動家を積極的に支援して頂きたいものである。我々競馬ファン側も意識をして、そのような活動家を評価し、バックアップすることが必要だろう。情報発信ができないという方は、活動家の投稿記事の拍手ボタンを押すだけでも良い。

 第二に、競馬予想の文化的価値を高めようとして、一定の情報公開を行っている予想者が連携できる場所を育てることである。以前より私は協会構想を説いているが、これは、「競馬予想家協会」のような協会を作り、優良と認識されたい予想家は当該協会に加盟して、事前の無料公開予想を行いつつ(注4)、その収支結果を協会に報告、協会はそれをチェックし、公表するというもの。予想家を一定の基準において競争させ、優秀な者に段位等を与えて表彰する機能や、予想の対象範囲ごとにタイトル戦を設けて称号を与える機能を持っても面白い。優良な予想家が集まり、注目を集めるようになっていけば、登録することや称号等がステータスとなって予想家側の需要も取り込め、協会がチェックをした上での収支やタイトル戦を見たいという競馬ファンの需要も取り込めるだろうし、タイトル戦にスポンサーがつくことも将来的には考えられる等、協会としても収益事業にすることができるのではないだろうか。このような協会の発展は、競馬予想界の発展に寄与することと思われる。

 第三に、上記をより効果的なものとするうえで、予想の優劣を判定する尺度が、現在の競馬界において「回収率」と「的中率」しかないことについて、何らかの改善が必要と考える。「回収率」と「的中率」は、どちらか一方が高いだけでは必ずしも優秀な予想とは言えないものだが、短期間や数の少ないレースでの高回収率や、取り紙にまみれた高的中率によっても成績を良く見せることができる。予想の優秀さは、回収率と的中率のバランスや内容と、一定以上の試行回数によって判定されるべきものであって、これを総体的に表現できる新たな概念を作り(注5)、協会や優良な予想家が当該指標を使うことによって共通認識にしていってはどうだろうか。この点については、そもそも、自身の予想技術のレベルを管理する指標がなければ、その向上を目指す時の物差しがないことになるため、競馬予想文化の成熟度の低さを示している部分だと考えている。

 優秀な予想技術を持つ予想家は、その手の内を見せないことが合理的だと考えるのが普通なのかもしれない。ネットで予想家として認められた人の中には、プロとなって情報を有料化し、顧客を囲い込むようになっている。しかし、優秀な予想家の成功の形がそれだけしかないとしたら、利己主義者や金儲け主義者、あるいは競馬関係者とつながりのある者のほかにこの業界で身を立てたいという人間はいなくなってしまうのではないか。

 優秀な予想技術を持つプロ予想家であれば、予想技術やその思考過程の一端を読者に伝えることによって、読者が、競馬予想が知的芸当であることに開眼することを理解できるはずである。そして、一度それに目覚めた読者は、安易な競馬詐欺に引っ掛かることはなくなると実感するだろう。それゆえ、悪徳業者等が優良な情報会社であると見せかけられる外観を作れないよう、悪徳業者等が真似できないこと(予想の一定の情報開示)を率先して行うことが意味を持つのである。これは、優秀な予想技術を持つ者にしかできないことであり、このような努力を行うことは、回りまわって自分たち自身の社会的地位や評価を高めることにつながるのである。

(注1)
・国民生活センターの2011年1月13日公表記事
http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20110113_1.html

・JRAが把握している悪質な予想・情報提供業者の被害事例及び業者一覧
http://www.jra.go.jp/news/informations/akutoku_ex.html
http://jra.jp/news/informations/akutoku_list.html

(注2)関連リンクは下記のとおり。
2008年6月6日(金) 朝日放送(ABC)「ムーブ!」 
https://www.youtube.com/watch?v=3lPtngwD_qs
とある業者のPR動画(リンク切れ)
(全レースの予想が的中するという映像だが、マークカードを書いている時点(2:12)で、京都2Rが始まる場内放送が流れており、東京1Rの前でないことが明らか。お粗末な騙し動画である)

(注3)例えば、以下のリンクの相談者のような事例がある。
http://oshiete.goo.ne.jp/qa/6157167.html

(注4)予想の事前公開を行う媒体は、事後修正ができない媒体(まぐまぐ等)としなければならないことに留意が必要。

(注5)当該概念については過去に検討し、独自の概念を試作・運用している。
拙ブログ「予想力を示す客観的な基準の検討について」
拙ウェブサイト「予想成績の開示に関する規則」

2014年4月6日