去る5月23日(木)、こちらのブログでも何回もご紹介し検討を行った裁判の判決が大阪地方裁判所で出されました。結果にかかる報道の概要について、以下の記事をご覧下さい。(リンクは消えてしまうと思うので、転載させて頂きます)

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<外れ馬券訴訟>被告、納得の判決…控訴せず
毎日新聞 5月23日(木)11時51分配信

 大阪市の元会社員(39)が申告しなかった競馬の所得を「雑所得」と認定し、全ての外れ馬券の購入費を経費と認めた23日の大阪地裁判決。判決言い渡し後、被告の元会社員は「主張が全面的に認められ、納得している。無申告だった責任は果たしたい。控訴しないつもりだ」とのコメントを出した。

 大阪地裁には朝早くから競馬ファンらが集まり、傍聴席60席に対して約240人が並んだ。スーツ姿の元会社員はやや緊張した面持ちで入廷。裁判長が読み上げる判決文にうなずきながら聴き入り、最後に一礼した。

 弁護人の中村和洋弁護士は判決後、大阪市内で記者会見し「正当な法解釈をしていただき、高く評価している。実質勝訴の判決だ」と話した。

 中村弁護士によると、元会社員は年収約800万円のサラリーマンだった。2004年から馬券購入を開始。市販の予想ソフトを改良した独自のシステムで、週末ごとに多いときで1日1000通り以上の馬券を買い続けた。最初に100万円を入金した後は一度も資金を追加せずに、黒字収支を続けた。5年後には約1億4000万円もの利益を手にした。

 これを元手に株取引をしたが、08年のリーマン・ショックなどで約7000万円の損を出した。その後、大阪国税局の税務調査を受け、残る約7000万円を納税に充てた。しかし、貯金は底をつき、妻子を養いながら、給料から毎月8万~10万円を納めていた。さらに、起訴されたことで勤務先に迫られて会社を辞め、現在は無職だという。

 中村弁護士は国税当局の対応について「今まで課税してこなかったのに、履歴が確認できたからといってスケープゴート的に(税金を)取ろうとしたのが誤り。課税処分は硬直的、形式的で過大。取り消すか変更してほしい」と批判した。また、「窓口で馬券を買う人は、ほとんど申告しないと思う。不公平にならないよう、制度をきちんと整えてほしい。個人的には宝くじのように非課税にすべきだと思う」と訴えた。
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 競馬による収入を「一時所得」ではなく「雑所得」とし、全ての外れ馬券の購入費を経費にできることとなり、元会社員男性の主張が認められる結果になりました。男性はこれで人生を取り戻すことができますから、本当に良かったと思います。

 しかしながら、既に報道(下記)でもされている通り、今回の判決は馬券の大量購入を前提にしており、限定的な判断と解釈されると思われます。

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国税庁内では冷静な受け止めが目立った。ある幹部は「こちらの主張が認められなかったのは残念だが、想定の範囲内。判決を見てみないとはっきりしないが、馬券の購入方法にはいろいろなケースがあり、今回はかなりのレアケースとして『雑所得』と判断しているはずだ。通常の馬券の払戻金が『一時所得』というこれまでの解釈に影響はないだろう」と強調した。(読売新聞)
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 そうすると、結局、この男性のように多額の馬券を購入しておらず、システムによるロジカルな買い方をしていない、年間100万円以上の馬券を購入しているくらいの一般競馬ファンの法的リスクはほとんど減っていないということです。
 今回の件があったので、安易には訴えられないとは思いますが、早く法の整備が行われることを望みます。
 なお、男性は控訴しない意向とのことですし、国税側もレアケースということで妥協しているのでしょうから、高裁に行くことにはならないでしょう。そして、男性の生み出した必勝法も、陽の目を見ることなく失われることになりそうです。

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馬券裁判で注目 “スーパー馬券術”の全容 100万円が5年で30億円に!?2013.05.24

会見に臨んだ被告男性側の中村和洋弁護士(左)。男性が編み出した馬券術はもう活かされない?=23日【拡大】
 馬券の配当をめぐる所得税法違反事件で、“実質勝訴”の判決を受けた大阪市の元会社員男性(39)。回収率を重視した独自の計算式を編み出し、インターネットを通じて自動的に馬券を購入。2004年に100万円からスタート、5年後にはのべ30億円を動かすまでになったその“スーパー馬券術”に注目が集まっている。

 大阪地裁の判決などによると、男性が利用していたのはJRA-VANやJRDB(電子競馬新聞)が提供する競馬データ。過去10年分のデータを独自に分析し、回収率に影響を与えるファクター、前走着順や血統、騎手、枠順、牡牝、負担重量など約40項目のデータを採用したうえで、回収率の高い馬をあぶり出す計算式を作成。狙い目を決め、自動的に購入するシステムを開発した。

 システムは半年ごとに見直しを行っており、弁護人の中村和洋弁護士によると「初期に比べると改良を重ねて、本人が使いやすいようにカスタマイズされている」。

 男性は04年に100万円を元手にこのシステムで馬券購入を開始。お金が溶けた時点でやめるつもりだったが、結局追加の入金は一切なく、5年間ほぼ全てのレースを対象に賭け、黒字を出していた。2007-09年の3年間では約28億7000万円分の馬券を購入し、払戻金は約30億1000万円。ネットの掲示板で回収率を披露し、閲覧者から「マスター」と称賛を浴びていた。

 対象レースは新馬戦と障害を除く全競馬場の全レース。パソコンの電源さえ入れておけば馬券を自動的に購入するため、2週間以上もパソコンを放ったらかしにし、その間にどんどん資産が増えていったことも。1日数百から1000点、金額にして1000万円以上の馬券を購入することが日常になっていた。

 判決ではこうした継続性、恒常性を認めて、馬券購入術を「資産運用」とし、「ハズレ馬券は経費」と認定したわけだが、中村弁護士は「この判決はあくまでも例外。今回は雑所得と認定されたが、一時所得との境目は難しい。これから法制度を整えてほしい」と強調する。

 さて、競馬ファンにとって垂涎のこのソフトだが、当然のことながら最も大事な『変数』は、男性がインプットした独自のアルゴリズム(算法)。会社も辞め、7000万円超の納税も済ませた男性は、公判で「家族は毎日泣いている」と訴えるなど一連の裁判に相当堪えた様子で、馬券購入を卒業している。再び「マスター」となる可能性はなさそうだ。

 国税庁が、競馬の払戻金が一時所得に含まれると通達を出したのは約40年前。ネットによる馬券購入開始などの環境の変化に課税実務が追いついていないのが実情だ。

 今はネット限定で最高2億円の払戻金が受けられるWIN5が発売されている時代。たまたまアナタがこれを当て、申告しなかったことがバレたら即アウト。今回のように「資産運用」「ハズレ馬券は必要経費」とは認めてくれないだろう。

 中村弁護士は「個人的な見解」としたうえで、「いずれは宝くじと同じように当たり馬券も非課税としないと公平性を欠くのでは…」と話している。
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 今回の裁判で明らかになったのは、競馬の税金における法の不備のほかに、競馬必勝法が存在しうるということ。理論上はかねてより説明してきましたが、一般の方々に広く伝わる事例になった(しかも、バッドエンドではなかった)ということで嬉しく思います。
 しかし、ただ、必勝法は存在するという面だけを強調すると、甘言によって誑かす輩の跋扈を招いてしまうので、予想情報の一定の透明化等を進めていく必要があると考えます。

2013年05月29日